射精したい欲求はどこから生じるのか?

射精した直後はまったく射精したい気が起こらないのは男性なら誰でも知っています。ペニスを触っても全く感じないどころか不快にさえ感じます。しかしある程度時間が経つと再び射精したい欲求が起こり、ペニスの感度も高まってきます。若い人なら数日で射精欲がピークに達し、もう我慢できないということもあるでしょう。いわゆる「ムラムラ」した感覚です。ではこの感覚がどこから来るのか考えたことはあるでしょうか? 多くの人は精子が溜まったら自然に射精したくなると漠然と考えているようですが、どうもそうではない気がします。この問題について様々な角度から「ムラムラの正体」について考察してみました。

精子が溜まると射精したくなる?

非常に単純に考えて、睾丸が精子で一杯になると射精したくなると思っている人が多いようです。ですから「キンタマが張ってくる」などの表現が出てくるのです。しかしこれは医学的に考えると明らかに間違いです。精子というのは睾丸で24時間休みなく作られていますが、新しく作られた精子は次々と精巣上体という場所に移動していくため、睾丸にある精子の量は増えたり減ったりもしません。したがって睾丸が精子で溢れるということはあり得ません。

それでは精巣上体はどうでしょうか? 精巣上体というのは睾丸にくっついている小さな器官で、睾丸で作られた未完成の精子を約70日かけて成熟させる働きをします。精子が出番を待ついわば控え室のようなところです。われわれが射精すると精巣上体にスタンバイしていた精子は精管を通って尿道へ送り出されます。しかし精子が完成するまで70日もかかるので、一度にすべての精子が出ていくとは考えにくいです。もしそうなら毎日射精とかできるはずがありません。おそらくは蓄えられている精子のうち成熟したごく一部の精子だけが出て行くのでしょう。また精巣上体は精子を蓄えるだけでなく、古くなった精子を分解する働きもしています。長い間射精されなかった精子は精巣上体で分解され、タンパク質として再び体に吸収されるのです。ですから精巣上体にはほぼ一定量の新鮮な精子が蓄えられており、溢れるということはあり得ません。精巣上体は陰嚢の中に収まっていますが、外から手で触ってみても何も感じないほど鈍感な器官です。ここに快感のセンサーがあるとは考えにくいですね。

精嚢が一杯になると射精したくなる?

精嚢というのは膀胱の後ろ側に一対くっついている袋状の器官で、精液の一部となる精嚢液を分泌する働きをします。非常によく誤解されていることですが、精嚢は精子を溜める場所ではありません。精嚢液を分泌するだけの器官です。

それでは精嚢が精嚢液で満たされると射精したくなるのかというと、これはたぶん違うでしょう。「精液の量を増やすには?」で述べたように、精嚢液というのは常に作られているわけではなく、勃起して興奮が高まることで分泌が促進されると考えられます。そのため興奮すればするほど大量の精嚢液が分泌され、精液の量が多くなるのです。したがって普段は精嚢はほとんど空っぽであり、一杯になるようなことはないと思われます。

男性ホルモンの濃度が上がると射精したくなる?

男性ホルモンの正体はテストステロンと呼ばれる物質ですが、これは睾丸で作られて性欲や精子の生産に関わっていることが知られています。したがってテストステロンの濃度が上がってくると射精したくなると考えるのも自然です。最近の研究によると、射精直後は一時的にテストステロン濃度が下がりますが、時間とともに回復し、一週間禁欲を続けると濃度が最大になることがわかっています。しかしそれ以上禁欲を続けてもテストステロン濃度が上がり続けることはありません。また長期間のオナ禁を続けると逆に射精欲が減退するとも言われています。おそらくテストステロンの濃度は性欲増進にはつながっているだろうと思いますが、射精欲を催す直接の原因ではないだろうと思われます。

前立腺液の充満がムラムラの正体か?

前立腺は膀胱の下側にある器官で、中を尿道が貫いています。また精嚢や射精管など射精に関わる器官がすべて集まってくる扇の要のような場所です。射精の際には前立腺自身が収縮して精液を発射します。前立腺が射精の中心的な役割を担っていることは間違いありません。

また前立腺には快感に関わる神経が集中していることもわかっています。「射精とオーガズム」で述べたように、射精管の周囲には快感を感じるセンサーがあり、これがオーガズムの源になっていると考えられます。射精管というのは前立腺を後ろ側から貫いていますから、やはり前立腺の内部であることには違いありません。また医師が精液採取を行う際には肛門から指を入れ、前立腺を刺激すると射精が起こることが知られています。同様にアナルセックスでは直腸から前立腺を刺激されることで大変な快感があり、いわゆるトコロテンで射精に至ることもあります。射精を伴わないドライオーガズムでもやはり前立腺の刺激が基本的な方法になっています。つまり前立腺というのは刺激すると「気持ちいい器官」なのです。

精液の量を増やすには?」で述べたように、精嚢液と違って前立腺液は作られるのに時間がかかります。したがっていったん射精するとすぐには出てこないのです。おそらく24時間くらいかけて少しずつ生産されているのでしょう。前立腺は精嚢のような袋状の器官ではなく、下の図(出典:Wikimedia Commons)に示すように、細長い腺組織が30~50個くらい集まってできています。その先端は微小な割れ目として尿道下部に開いています。前立腺のそれ以外の部分は筋繊維で満たされていて、筋肉が収縮することにより前立腺液を尿道に絞り出します。

前立腺の内部構造

ここからは仮説ですが、前立腺液が作られて腺組織に充満してくると前立腺全体が少し膨らんでくるはずです。前立腺には快感を感じるセンサーが張り巡らされているため、このときの圧力を検知すると「射精したい」という欲求が起こるのではないでしょうか? 「射精中の体内動画解説」で説明したように、勃起して興奮が高まると前立腺液が少しずつ尿道内に充満してきます。時には白い前立腺液が尿道口から漏れてくることもあります。このとき前立腺が収縮して前立腺液を絞り出しているのです。ペニスを刺激し続けるとだんだん気持ちよくなり、今にも出そうという感じになるのはまさにこの前立腺の収縮によるものと思われます。つまり前立腺が収縮することで快感神経が刺激されるわけで、前立腺液が充満して圧力が高まると周囲の神経に何らかの刺激を与えることは確かでしょう。これが射精欲の直接の原因だろうと考えています。